「太陽の神話」岡本太郎作品をご存知ですか 愛知県との深い深い縁
— 2023年2月27日岡本太郎といえば1970年開催の大阪万博のために制作された「太陽の塔」と、2003年にメキシコで発見され、現在は渋谷の駅に展示されている「明日の神話」が有名ですが、皆さんは「太陽の塔」と「明日の神話」ならぬ(2つの名前を組み合わせたみたいな名前の)「太陽の神話」という作品をご存知ですか。
これが何と愛知県と深い深い縁があるんですよ。
岡本太郎の大回顧展が2022年7月23日~10月2日まで、大阪中之島美術館で開催され(ヨモヤマ話「なんだ?これは!岡本太郎である」を見てくださいね)、その後10月18日~12月28日まで、東京都美術館で、そして2023年1月14日~3月14まで愛知県美術館で開催されています。
この愛知県での回顧展は、大阪や東京と違って、わざわざ「岡本太郎と愛知」の展示があるんです。
そこには「1951年に岡本が自宅に浴槽を新設した際、施工を担当したのが伊奈製陶(現・LIXIL)でした。この時東京事務所の担当者から、当時同社が発売したばかりのモザイク・タイルを紹介されたようです。その発色と堅牢さに新たな画材としての可能性を見いだした岡本が、愛知県常滑市の伊奈製陶で制作したモザイク・タイル画が『太陽の神話』なんだそうです。
これはそれまで絵画の素材としては用いられてこなかったモザイク・タイルを、岡本太郎がはじめて画材とした作品なんですが、単に「画材」の話ではありません。
愛知県出身の私に言わせれば、この「太陽の神話」という作品からは、後年の「太陽の塔」へと繋がるイメージが伺えるばかりか、この作品がきっかけとなって、1952年4月に、日本橋高島屋地下通路にモザイク・タイル壁画の制作依頼があり、「創世」を完成させているんです。岡本太郎にとっては、これが最初のパブリック・アート(公共の場に公開展示される芸術作品)であり、「太陽の神話」が「明日の神話」というパブリック・アートへと繋がるきっかけだったんです。
残念ながら「創生」は現存していないそうですが、同時期に制作された「ダンス」というモザイク・タイル画は2011年に大規模な修復プロジェクトが行われました。
岡本太郎の芸術への思いは、「芸術とは一部の人の占有物ではなく、むしろ大衆と結びつくことにこそ価値がある」という言葉の通り、広く大衆に見られることが重要でした。芸術の大衆化として堅牢なモザイク・タイルという方法に新たな可能性を見出しました。岡本太郎も1か月も工場に泊まり込みで職人の方たちと作業を共にし、その思いに応え、作家のイメージを忠実に再現するべく、伊那製陶の職人の方たちは努力を惜しまなかったそうです。
ちょと強引かもしれませんが、岡本太郎の芸術と、愛知県って深い深い縁があるでしょう。
実は、もっと個人的な愛知県民のローカルな思い出もあるんです。以前、愛知県名古屋市中区栄に「オリエンタル中村百貨店」(その後名古屋三越となりました)というのがあったんですが、そこに1971年外壁に岡本太郎の光るレリーフ大壁画が設置されていたんですよ。パブリックアートのつながりから、本当に懐かしい子供の頃に見た記憶が蘇りました。
他にも、岡本太郎と愛知県との縁は沢山あるんです。
1965年岡本太郎は、名古屋市の久国寺(きゅうこくじ。曹洞宗)からの依頼で、梵鐘(ぼんしょう。簡単に言えばお寺の鐘ですね)を作っているんですが、「歓喜」という名前で、角がニョキニョキ生えているんです。
一体どんな音がするんでしょうか(私も見たことも、鐘の音を聞いたことも実はないんです)。岡本太郎も悩んだようで、「今度私が鐘の製作を頼まれたとき、一番最初にぶつかった問題はどこまで自由な造形が出来るか、ということだった。私独自の作品として、新しい喜び、猛烈な形を作り上げたい。しかし、何といっても、梵鐘だ。音が出なければーこれがジレンマだった」と述べていたそうです。今では大晦日だけ先着108名がその鐘を鳴らすことができるそうです。貴重な体験ですね。
また1969年には、愛知県犬山市の日本モンキーパークに、「若い太陽の塔」を制作しています。
大阪には「太陽の塔」があり、名古屋には「若い太陽の塔」があるんですが、東京の数寄屋橋公園には、「若い時計台」があります。
みんな「顔」とニョキニョキした「角」がついているんですよね。
この「若い時計台」について岡本太郎は、「現代社会では狭いわくの中におさえられているが、しかし人間は本来、八方に意欲をつきだし情熱をほとばしらせて生きたいのだ。その若々しく、のびきった姿をここにうちだした。のびて行く日本、そして東京の象徴でもある。これは無邪気な生き物。時間を食べてしまって、ぬくぬくと笑っているそういう時間を超えた時間、機械的でない、人間的は時間を表象したつもりだ。」と述べています。制作された1966年はちょうど高度経済成長期真っ只中で人口が一億人突破した年だったそうで、私も仕事でよくここを通りますが、今では少し時間も経って、その頃の日本の熱気とは違う空気の中で佇んでいるようです。でも、展覧会などで再び注目されている様子に、いつまでも色あせない岡本太郎の精神を感じますね。
こうして、大衆と芸術を結びつけることに心をかけた岡本太郎の芸術が、現代において様々な土地で多くの人々の目に触れて親しまれていることは、とても感慨深いものがあります。
さて、太陽の塔をはじめとした立体作品は、生活に関わる様々なものを作ったことは以前のヨモヤマ話でも述べましたが、ここではちょっと面白い「坐ることを拒否する椅子」を紹介したいと思います。
これは1966年に作られた陶器なのですが、座面に大きな目や牙があったりと、まさに座ることを椅子が拒絶していて、「今日の芸術は、うまくあってはならない。きれいであってはならない。ここちよくあってはならない」という岡本太郎らしい精神にあふれた作品だなと思うんです。
作品について岡本太郎は「私は素朴な合理主義や機能主義を乗り越えて、いちだんと激しい生活感、イマジネーションを打ち出したかったのだ。そこで椅子でありながら、精神的にも肉体的にも人間と対等づらするこいつらを作った。生活の中の創造的な笑いである。」と語っています。
実はちょうど画廊にも飾っているのですが、いざ座ろうと思っても噛みつかれるような睨まれているような感じで(実際は座れないのですが)、でも不思議とじっとながめていると段々と愛着が湧いてきて、本当に生き物の様な愛くるしさを感じてとても気に入っています。
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