マリー・ローランサンとココ・シャネル
— 2023年6月30日ローランサンと言えば、女性的で優美な画風で誰もが知っているかと思います。
淡い優しい色彩は、誰が見てもローランサンの作品だと思わせる、独自の画風を確立していますよね。絵柄からは、優しい人柄が窺えそうな気もするのですが、ちょっとそれだけじゃないんです。
ローランサンは1883年(日本では明治16年)生まれですが、あのココ・シャネルも同じ年の生まれで、2人とも第一次大戦(1914年から1918年。日本では大正3年から大正7年)後のパリで大活躍していたんです。
この第一次大戦後の1920年代は、「狂騒の時代」と言われています。アメリカを中心にジャズ・ミュージックが花開き、それまで女性らしいとされてきた装いや行動様式ではなく、「モダン・ガール」と呼ばれた、膝丈の短いスカート、ショートヘアのボブカット、濃いメイクアップの若い女性が登場し、そして最後は1929年(日本では昭和4年)のウォール街の暴落がこの時代の終わりを告げて、世界恐慌の時代に入っていくまでの10年間です。
当時のパリは、自由な雰囲気に溢れていたようで、多くのデザイナーが競ってモダン・ファッションに取り組み、女性の服が大きく変化を遂げた時代でした。美術とファッションという異なる分野で活躍した2人ですが、パブロ・ピカソやジャン・コクトーなど共通の友人も多かったようです。
今でこそアートの世界で活躍する女性は増えていますが、この時代に女性がプロの画家として自立することは並大抵のことではなかったでしょう。
作品を見ると、あまたの芸術家の中でも埋もれることのない個性と、女性らしいといっても、可愛らしさや美しさだけではない挑戦的な雰囲気も感じます。
それにしても、これだけの人たちと渡り歩くなんて、ローランサン本人が持つ人としての魅力もあったのでしょうね。
パリの社交界ではローランサンへ肖像画を依頼することがステータスとなっていて、シャネルも成功の証しにと、ローランサンへ肖像画を依頼したそうです。
ローランサンの描く男爵夫人の肖像
でも、シャネルは、「似てないから描き直して」と突き返したそうです。
ローランサンの描くココ・シャネル
ローランサンも「所詮シャネルはオーベルニュ(どこかしら?)の百姓女よ。こんな百姓女に私は譲歩することはないでしょうね」と譲らなかったため、ついに肖像画が受け取られることはなかったんだそうです。
2人とも凄い女性ですよねえ。
「マリーのモットー」は、「贅沢が好き パリに生まれたのが誇り 説教も、批判も お世辞さえも嫌い 早く食べてー早く歩いてー早く読む」ことだったそうです。
そこまで言えるなんて普通の人には難しいですが、芸術家らしいといえばらしいですよね。それでも二人の友好は続いていたというのですから、強い個性の二人でも、お互いに才能を認め惹かれあっていたのでしょうね。
でも、明るく華やかなことだけじゃないんですよ。
ローランサンは、第一次大戦、第二次大戦の時代を生きているのですが、戦争の影響を強く受けています。ローランサンは、1914年にドイツ人の男爵と結婚しているのですが、その年に第一次大戦が起こり、ローランサンとドイツ人男爵夫婦は、スペインに亡命しています。
1918年に第一次大戦が終わり、単身パリに戻るのですが、翌年には離婚しています。
1929年に世界恐慌が起こり、ひどい混乱の中で、ドイツではナチス(国家社会主義ドイツ労働者党)のヒットラーが台頭し、1939年(昭和14年)にはドイツのポーランド侵攻をきっかけに第二次世界大戦(1939年から1945年)が始まります。
第二次大戦中、ローランサンの作品は、ナチスから「退廃芸術」と批判されていたようですが、かってドイツ国籍をもっていたことや、ドイツ人の文化担当将校と面識があったことなどから、1944年のパリ解放の際、対独協力者として捕らえられたこともあったようです。
疑いは直ぐに晴れたようですが、その後ローランサンは、華やかな社交界から離れて宗教のなかに安らぎを見いだしたそうです。
ローランサンの作品には、二つの戦争を経験したつらい思いや憂いも込められているんですね。
ところで、同じくシャネルも対独協力者として戦後に逮捕されてしまいます。チャーチルの尽力で釈放され、スイスに移住しファッション業界から引退しますが、ディオールの女性の体を締め付けるデザインに反発して復帰し、再びファッション業界のスターダムにぼりつめたことは有名です。
もちろん1920年代のシャネルのデザインは、今見てもとても美しく、新鮮な驚きを与えてくれます。現代でも通用するシャネルの美的感覚は目をみはるものがありますね。
そして、展覧会のエピローグでは、シャネルのアーティスティック・ディレクターを務めたカール・ラガーフェルドが手掛けた、ローランサンの色彩から着想を得たコレクションのショー映像が流れていましたが、長い時を経て再び巡り合ったローランサンとシャネルの融合は、大変に見ごたえのあるものでした。
時代の波に翻弄されながらも、自分を貫くことの大変さはよく分かります。
ローランサンもシャネルも、女性が活躍する社会の先駆けとも言える存在ですが、今の時代に二人の人生から学ぶことも多いと思います。展覧会は現在、名古屋市美術館で開催中です(9月3日まで)。是非この機会に、100年近く前に時代を大きく変えた女性たちの活躍を見に行かれてはいかがでしょうか。
美術ヨモヤマ話
愛知県碧南市 藤井達吉現代美術館ってご存知ですか
2024年5月2日奈良美智の少女を泣かせたのは誰?
2024年2月26日エコール・ド・パリと100年後の今
2024年1月31日世界のムナカタってどうやってメイキングされたの?
2023年11月27日日本とゴッホ
2023年11月2日マティス展 Henri Matisse:The Path to Color
2023年8月7日越後妻有(えちごつまり)を訪ねて
2023年7月19日
画廊紹介
営業時間
月曜日~土曜日(日曜・祝日はお休み)
午前10~午後7時まで
詳しくはこちら
詳しくはこちら
お問合せ
電話番号:03-3562-1740
E-mail:info@oida-art.com
お問合わせフォーム
お問合わせフォーム
LINEでお問合せ
アクセス
画廊店主のひとり言
- 付け馬のついていた画商さん — 2023.12.8
- 一丁あがり、モダンタイムス時代の結婚式 — 2023.8.30
先日、ある地方に住んでいらっしゃるお方(Aさん)より電話がありました。 「B画伯とG画伯の絵を売りたいのですが。」 「保証書と共箱が付いていて、たぶん間違いの...
先日友人の娘さんの結婚式に招待され、参列してきました。 このお二人そもそもはお見合いでお付き合いが始まった話なのですが、お付き合いをするようになりましたら、...
「画廊店主のひとり言」その他のコラムはこちら
作品検索
-
熊谷守一
茄子詳細 笠井誠一
西瓜とコーヒー挽き詳細山下清
花火詳細斎藤清
夏詳細星襄一
赤い木詳細長谷川潔
コップに挿した野花詳細浜口陽三
ロビーナのさくらんぼ詳細岡本太郎
海辺詳細シャガール
ダフニスとクロエより ...詳細ユトリロ
霊感の村より「ムーラ...詳細ベルナール・ビュッフェ
オレンジのチューリッ...詳細カトラン
四季より 夏詳細デュフィ
ドーヴィル(ドービル)...詳細アイズピリ
水色の背景の赤いバラ...詳細マティス
“ヴェルヴ”より la pe...詳細カシニョール
会話詳細キース・ヘリング
Tree of Life詳細バンクシー
GIRL WITH RED BALLOON...詳細草間彌生(草間弥生)
無限の水玉 (ポスター)詳細奈良美智
The Little Star Dweller詳細小松美羽
守護獣 土詳細リャド
グラナダ(本人サイン)詳細ドラクロワ
恋人達の四季 夏詳細ラッセン
ドリームタイム(S)詳細