熱海を散歩して
— 2026年5月19日今日はとってもいいお天気 ブラリと熱海を散歩していたのですが、相模湾を望む高台に、自然と人工の美が調和する空間があります。MOA美術館(熱海市)です。
エントランスから美術館本館までは相当な高低差があり、エスカレーターを乗り継いで、メインロビーへ行くのですが、そこからは、初島や伊豆大島、房総半島から三浦半島、伊豆半島まで大パノラマを眺望できます。私は数えきれないほどMOA美術館を訪れているのですが、以前行った地中海や南仏のような開放感があり大好きな美術館のひとつです。
入り口に杉本博司の大きな海の作品が展示されています。
さりげなく飾られているのですが、なぜ杉本なのかしらと調べてみると、同館の内装リニューアルを、現代美術作家、杉本博司が榊田倫之とともに主宰する新素材研究所が手がけたそうです。
私は、「杉本博司って何なんだとか」(https://www.oida-art.com/archives/87360)このコラムでも取り上げているんですが、本当に素晴らしいんですよ。
杉本は、「私は文明の起源に、長い間想いを馳せてきた。人類は素晴らしい宝物達をその手で作り続けてきた。しかしふと気が付くと、私達には今、昔のような名品が作れるだろうかと私は訝る。はたして現代美術は千年後に国宝になり得るだろうか。芸術に関する限り、私は時代が進化しているのか、衰微しているのかを測りかねている。」とか、「現代に生きる人々を前近代へといざなうための門扉としてふさわしい色と艶が匂い立ち、人々はその前で居住まいを正し、気を引き締めることになる。」と述べています。杉本の思いとは異なるかもしれませんが、MOA美術館のたたずまいは、私には、まるで古代のギリシャ建築のように感じられるのです。
展示されている部屋へ入って行くと、歌川広重(1797–1858)の「広重 東海道五十三次版画×PHOTO」が展示されていました。
「東海道五十三次」は「江戸日本橋から京都に至る東海道の旅情を、四季の移ろい、天候や時刻の変化とともに描き出し、臨場感あふれる風景表現を特徴」とする歌川広重の代表作なのですが、面白いのは広重の版画と現在の風景の写真(PHOTO)を並べて展示していることでした。
歌川広重は、江戸定火消同心・安藤源右衛門の子として生まれましたが、15歳で歌川豊広に入門し「広重」の号を得ました。そういえば一時期、美術の教科書では本名の「安藤広重」と呼ばれていたこともありましたが、今では「歌川広重」が一般的で、実は当の広重本人も絵師として「安藤」は名乗っていなかったそうです。
ところで、江戸時代を代表し、いまなお国内外で人気を誇る二大浮世絵師といえば、葛飾北斎と歌川広重ですが、最大の違いは、「大胆なデフォルメと奇抜な構図の北斎」に対し、「写実的で情緒ある風景を描いた広重」という表現スタイルにあると言われています。北斎は広重より30歳くらい歳上で、広重に多大な影響を与えたそうですが、どちらの作品も素晴らしいですよね。
北斎は例えば代表作の「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」のように圧倒的でドラマチック、対して広重は「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」の雨の表現にもあるように風景の空気感を見事に捕らえていると思います。
葛飾北斎「神奈川沖浪裏」
歌川広重「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」
「東海道五十三次」の中で、まず印象に残ったのは「日本橋 朝之景の画像」と「箱根 湖水図」です。

歌川広重「日本橋朝之景」
ここから、東海道五十三次の旅が始まります。これは朝の日本橋の様子ですが、早朝の少し靄に包まれた空気の中に、魚河岸から魚を仕入れた行商人がいたり、大名行列が出発する様子だったり、いよいよここから始まるぞ、という雰囲気を感じますよね。
歌川広重「湖水図」
これは東海道の難所として知られていた場所で、よくよく見ると狭く険しい道に参勤交代の大名行列が詰まっていますね。それとはうらはらに、雄大な山々と、遠くに薄く見える富士山の姿がとても美しいです。
この他にも、印象深い風景がずらりと並んでおり、見入ってしまいました。
歌川広重「沼津 黄昏図」
歌川広重「蒲原 夜之雪」
歌川広重「鞠子 名物茶屋」
歌川広重「御油 旅人留女」
歌川広重「庄野 白雨」
歌川広重「亀山 雪晴」
歌川広重「三条大橋」
ところで、大先輩である北斎の「富嶽三十六景」が天保2年(1831年)に発表されて、どうやら風景版画については北斎が先にヒットしたそうです。その後、広重は改号して心機一転、天保4年(1833年)に「東海道五十三次」を発表し人気席巻しました。
私が印象に残った作品のうち「鞠子 名物茶屋」「御油 旅人留女」には、実はかの有名な「東海道中膝栗毛」の弥次さん喜多さんも登場しているそうで、どうやら人気小説も取り入れたしたたかな戦術があったそうです。また、「蒲原 夜之雪」と「庄野 白雨」は、海外有名オークションでも出品されていましたが、海外でも欲しい方が多いようで、とても高い落札価格だったのを覚えています。
今回、保永堂版を揃いでを見ることができたことと、状態の良いものというのはこういうものなんだということが分かり、見る価値ありと感動しました。
江戸(東京)から京都なんて、現代は新幹線であっという間です。たった200年弱の間にこんなに変わってしまうなんて、広重が見たらさぞ驚くことでしょうが、江戸時代の情緒ある風景が今はかえって新しいものに見える熱海の散歩でした。
美術ヨモヤマ話
熱海を散歩して2026年5月19日
平成と令和の時代のアートを比べてみると2025年12月8日
信州小布施の秋散歩 栗と葛飾北斎2025年11月14日
長野市にある「いきものの森」を訪ねて2025年9月24日
詩人 ジョアン・ミロ2025年5月12日
藤田嗣治 「猫のいる風景」展と 挿画本「四十雀」「藤田嗣治とジャン・コクトー」展2025年3月24日
善光寺参りと東山魁夷2024年11月18日
画廊紹介
営業時間
月曜日~土曜日(日曜・祝日はお休み)
午前10~午後7時まで
詳しくはこちら
詳しくはこちら
お問合せ
電話番号:03-3562-1740
E-mail:info@oida-art.com
お問合わせフォーム
お問合わせフォーム
LINEでお問合せ
アクセス
画廊店主のひとり言
- 付け馬のついていた画商さん — 2023.12.8
- 一丁あがり、モダンタイムス時代の結婚式 — 2023.8.30
先日、ある地方に住んでいらっしゃるお方(Aさん)より電話がありました。 「B画伯とG画伯の絵を売りたいのですが。」 「保証書と共箱が付いていて、たぶん間違いの...
先日友人の娘さんの結婚式に招待され、参列してきました。 このお二人そもそもはお見合いでお付き合いが始まった話なのですが、お付き合いをするようになりましたら、...
「画廊店主のひとり言」その他のコラムはこちら
作品検索
-

山下清
つゆ草(1)詳細 
棟方志功(リトグラフ)
大慈航観世音菩薩図詳細
斎藤清
さつきの会津 (9)詳細
山本容子
不思議の国のアリス c...詳細
パブロ・ピカソ
Imaginary portraits(6...詳細
シャガール
ダフニスとクロエより ...詳細
ユトリロ
霊感の村より「ムーラ...詳細
ベルナール・ビュッフェ
オレンジのチューリッ...詳細
カトラン
四季より 夏詳細
デュフィ
ドーヴィル(ドービル)...詳細
アイズピリ
水色の背景の赤いバラ...詳細
マティス
“ヴェルヴ”より la pe...詳細
白髪一雄
趙(“中国戦国七強”より)詳細
元永定正
あかのうえ詳細
バンクシー
GIRL WITH RED BALLOON...詳細
村上隆
シャングリラ・ブルー詳細
リャド
スタット公園の庭(本...詳細
ラッセン
ミスティックライト (S...詳細




























































































