「まるで映画」じゃすまない「現実」の中へ
— 2021年11月5日「それはまるで映画のセットのような美術展」と銘うった「バンクシーって誰?展」へ行ってきました。8月21日から12月5日まで東京・天王洲寺田倉庫で展示されています。
「バンクシー」が誰か(その正体は誰か)はわからないにしても、「バンクシー」と名乗る有名な覆面ストリート・アーティストのことや、その作品についてはご存知の方が多いと思います。
私は以前、大阪で「バンクシー展 天才か反逆者か」を観てきましたが、その時はパレスチナの長い長い「世界史」の物語に思いをはせることになりました。(https://www.oida-art.com/archives/88488)。
今回の展示は、「映画のセットのような新感覚の没入型展覧会」で、「現地で作品を見るようなリアルな擬似体験」をすることができます。
ロンドンの街をぶらぶら歩いていると、ウォータールー橋のたもとの階段に、赤い風船と少女の姿が描かれています。誰が描いたのか分かりません。
「風船を持った少女」《Girl with balloon》
でも何か物悲しげな少女の姿は、後日、シリアの子供達を救う「#WithSyria」キャンペーンのアイコンになりました。そして誰かが、この少女の横に、「THERE
IS ALWAYS HOPE 」(いつだって希望はある)と書き加えました。
この壁に描かれたグラフィティーや書き込みについて、展覧会のカタログには、「自由に人が書き加え、揶揄したり批判しながら、さまざまに解釈する。それにより成熟した文化が醸成され、《Girl with balloon》はイギリス人の誰もが愛する国民的名画となった。グラフィティを名作に育てるのは鑑賞者なのだ、と教えてくれる名品だ。」とあります。
壁に絵を書いたら、日本なら軽犯罪法違反に問われかねないでしょうにねえ。
次の角を曲がると、廃墟と化した壁に大きな猫が描かれています。
ここは何処なんだろうと思っていると、「2014年夏、7週間におよぶイスラエルの軍事攻撃により、廃墟と化したガザ地区北部のベイトハヌーン」と解説がありました。バンクシーは、現地を訪れて、この作品を残したようです。バンクシーによると、この絵は「悲惨なガザ地区の現状と対照的な陽気な子猫の絵を描き、そのギャップでガザ地区の現状を伝えたかった。」とのことで、バンクシーが「世間の注目を集めるために、廃墟の中にこの絵を描くと、たちまち国際的な支援団体がこの地区の人々の援助に名乗りをあげた。」そうです。
文字通り「まるでその場にいるかのような体験」をすることができるのですが、このベイトハヌーンという町は今年の5月にもイスラエル軍の空爆で大きな被害を受けたことを知ると、心が痛みます。
Love Is In The Air (愛は空中に)という版画があります。
すごい人気のあるグラフィティーなのですが、実は私には、何でこんなに人気があるのか分かりませんでした。でも今回の美術展に行って、この版画のもとになった作品が、パレスチナのガソリンスタンドの壁に描いたグラフィティーだということを知りました。パレスチナの人達が投げているのは、実際には火炎瓶なんです。それをバンクシーは、花束に変えました。タイトルは、The Flower Throwerです。
暴力ではなく、愛こそが平和をもたらすというメッセージを、バンクシーは、安全なイギリスのアトリエではなく、パレスチナ現地で描いたのです。
また、この展覧会での展示されているものの中には、今世界中を蝕んでいる新型コロナウイルス問題をテーマにしたものもあり、バンクシーはさまざまな社会問題について、アートを通じて人々に投げかけています。
そしてミャンマーやアフガニスタンや香港に、バンクシーなら何を描くのかしら、と思いました。平和な日本で良かったと思うと同時に、私達には何ができるのかなあとも思わせられました。
「それはまるで映画のセットのような美術展」なのですが、
「まるで映画」じゃすまない国際社会の暴力的な「現実」の中へ身を置くような美術展でした。やっぱりバンクシーって、そしてアートって凄いなあと感じさせられる美術展でした。
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