墨いろって何色?
— 2021年6月8日先日、横浜そごう美術館で、「墨と100年 とどめ得ぬもの 墨のいろ 心のかたち
篠田桃紅展」を観てきました。篠田桃紅(しのだとうこう。1913年3月28日 – 2021年3月1日。享年107歳)をご存じですか。
以前、東京芝にある増上寺で、桃紅の作品を数点観たことがありました。増上寺は、浄土宗の七大本山の一つで、この増上寺から依頼されて、桃紅は、壁画と襖絵を制作したのですが、いずれも大作でした。
今回は、年代順をおって、80点にも及ぶ作品が展示されていて、心ゆくまで桃紅作品を味わうことができました。
最初は「第1章
文字をこえて(渡米以前)―1955」です。桃紅35歳から42歳頃までです。この時期のものは、桃紅が日本古典文学と書法を学び出発した「初期の作品」と言われているのですが、実のところ私は、あまり感じませんでした。
ところが、「第2章 渡米 新たなかたち 1956-60年代」
となると作風がすごく変わります。43歳頃1956年に渡米して「抽象表現主義」(デクーニンやジャクソン・ポロックとかが有名です)の絵画が全盛期のニューヨークで、強く影響を受け、桃紅の作風は変わります。
この時期の作品は、文字の決まり事を離れた新しい墨の造形を試み、その作品は「水墨の抽象画=墨象」と呼ばれています。
「行人」(こうじん)
For the Greenは、もはや文字とは言えないでしょうが、圧倒的な力強い墨のなかに、緑青(ろくしょう)が秘そんでいます。52歳頃です。
「行人」は、インパクトがありました。桃紅スタイルが確立したような気がします。
そして57歳頃1970年に日本に戻るわけです。「第3章 昇華する抽象
1970-80年代」です。65歳頃1978年に制作した「月読み」(つくよみ)Moonという作品は、「エネルギッシュな筆さばきは影をひそめ、桃紅の内に蓄積された日本の美意識が、叙情的な趣を湛えて作品の中に現れるように」なります。
作品名は、英語ではMoonですが、日本語では「月読み」です。「月読み」って、イザナギノミコトが黄泉国(ヨミノクニ)から逃げ帰った後に、穢れ(ケガレ)を祓う(ハラウ)ために入り江で禊ぎ(ミソギ)をした際に、左目を洗うと天照大御神(アマテラスオオミカミ)が、右目を洗うと月読尊(ツクヨミノミコト)が、最後に鼻を洗うと素戔嗚尊(スサノオノミコト)が生まれという、あの「月読」ですよね。
この作品からは、どことなく「日本の美意識」が現れている感じを受けます。
「熱望」Eagerは、下から上へと伸びる数本の朱の縦の線と、左端に引かれた一本の黒い線が描かれた作品なのですが、情熱的な朱が、強調されています。この「縦に走る線を連続させて配置した構図」は、80年代を代表するものだそうです。
でも桃紅は、さらに変わります。「第4章 永劫と響き合う一瞬のかたち 1990年代以降」。
桃紅が91歳頃の作品に「桃紅李白」があります。墨だけでなく、朱や銀泥、金泥を使った作品ですが、「禅林句集」に収められている一節「桃紅李白薔薇紫」(桃は赤く、李(すもも)は白く、薔薇は紫)を題材にしたもので、桃紅という雅号は、この句集から付けられたものだそうです。
100歳を超えた時に、どんな人生が見えるんでしょうか。
それは、晩年になっても創造性は尽きることなく、墨の面に、金地や銀地の「光」や朱色の面を入れたりすることで、画面に奥行き感が生まれ、墨の面の存在感がより高まっていったことにもあるではないでしょうか。
このように桃紅は、変化し続けるのですが、一瞬の「心のかたち」を追求し続けたと言われています。
104歳の時に桃紅がそれまでに発表した文書をまとめて新装復刊した本に「墨いろ」があります。
「墨は、同じものを使っても、季節や時刻、場所や天候によって、ただ濃い淡いの差とは別のちがいがある。絵の具や金銀泥を使うこともあるが、墨ほど、自然の微妙を敏感に浮けとめる材料は、他に知らない。手なずけにくい道具である。いつも裏切りを蔵し、それが墨のいざないの秘密であろうが、手のうちに入れようなどとむきにならなければ、かえってやさしくこちらを導いてくれるような相手でもある。」
「墨による黒は、真っ黒の一歩手前の色、明るさのある黒で、心を騒がせない色、沈静であって死ではない、動きを残す色、ということである。」、「ほんとうの“くろ(玄)”は真っ黒ではない、という考え方が、私にはたいそう気に入る。一歩手前でやめる、という、そのあと一歩に無限のはたらきを残し、それはわが手のなすところではなく、天地自然、神、宇宙、とにかく人間のはかり知れない大きな手にゆだねる、そういう考え方がこのましい。このましいが、一歩手前がまことにむつかしい。」
104歳でこうなのだから、煩悩と悩みだらけの私などには・・と感じ入るのですが、一体、墨いろって何色なのかしらん。
私も、桃紅の良い作品を扱えたらと願っています。
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